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2025.03.26
和装小物のひとつ、箱迫。
七五三の晴れ着や花嫁衣装を着た時などに、
懐に差し入れて胸元を飾った記憶がある方もいらっしゃるのでは?
現代では晴れ着の装飾品として使われる箱迫ですが、
もともとは江戸時代に、幕府や大名の奥女中、武家の中流以上の若い女性たちが、
正装時に使っていた携帯小物入れでした。
入れていたのは、懐紙や鏡など身だしなみを整えるための必需品。
つづれ織り、ビロード、羅紗、金襴など豪華な素材が使われていました。
現代で例えるなら化粧ポーチや、パーティーで持つミニバッグのようなモノといえそうです。
写真の箱迫は、赤い絹地の表面に、美しく繊細な刺繍が彩られています。
古来よりめでたい模様として好まれた牡丹と蝶があしらわれた華やかな逸品。
身につけるシーンの大切さや、正装した時の高揚感を想像させます。
装いの基本は、懐紙を納める部分を内側にして華やかな装飾が少し見えるようにして懐に収め、
すべり落ちないように胴締めの先の小さな落巾着を帯の間に挟みます。
時には、びらびら簪や絹の房飾りを挟むこともありました。
胸元にちらりと見える小物にさえも、こだわりたい。
当時の若い女性たちの、そんなおしゃれへの想いが垣間見えるようです。
牡丹蝶模様箱迫 江戸時代末
Photo YURI MANABE