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2025.01.29
浮世絵にみる江戸時代の女性たち。
美しく描かれたその顔に、現代との違いを見つけるならば、それは口もとのお歯黒ではないでしょうか。
お歯黒という化粧は、『魏志倭人伝』にも記載があるたいへん古い習慣です。
平安時代には身分の高い公家などがお歯黒をしていましたが、
時代が進み、江戸時代には女性が結婚を機に行う通過儀礼のひとつとして一般庶民に定着、
既婚女性であることを表現する化粧となりました。
黒は他の色に染まらないことから、貞節を意味していたようです。
嫁ぐ娘のために、婚礼化粧道具として化粧道具一式が用意される、
そこには必ずお歯黒道具も見受けられます。
お歯黒化粧を行うために必要な、両側に取っ手のついた耳盥(みみだらい)、
ヌルデの木にできた虫こぶ(五倍子)を入れる五倍子箱(ふしばこ)、お歯黒水を入れるお歯黒壺、
お歯黒を歯に施すためのお歯黒筆など、さまざまなアイテムがそろっています。
ちなみに、このような装飾性の高いものではないものの、
庶民もほぼ同じ種類がそろったシンプルな道具を所持していました。
嫁ぐ娘の幸せを願い、妻の証となる化粧道具を揃える親。
初めてお歯黒をつけ、恥ずかしいような嬉しいような様子の娘。
妻となり、家人が起きる前にお歯黒をつけて身支度を整える、きりりとした面持ちの女性。
結婚という人生の節目にこめられた当時の人々のさまざまなドラマや想いが、
このお歯黒道具から浮かび上がってくるようです。
橘唐草紋散蒔絵婚礼化粧道具 お歯黒道具 江戸時代後期
Photo YURI MANABE