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コミュニケーションとしての香り

039

コミュニケーションとしての香り

2024.07.11

ころんと丸いカボチャのような形が愛らしい阿古陀香炉。
その名前の由来は「阿古陀瓜」、山水の蒔絵に金属の透かし網が乗せられています。
平安時代には、金網部分が細長い烏帽子型の香炉が使用されていたことが
『枕草子絵巻』や『類聚雑要抄』に見ることができます。

やぐらや大きな籠のような「伏籠(ふせご)」の中に香炉を置き、
焚きしめた香を衣服に移します。
香りは「自己表現」であり、
他者とのコミュニケーションを深めるための必需品でもありました。

源氏物語の「若紫」に、
「雀の子を犬君が逃がしつる、伏籠のうちに籠めたりつるものを」という一節があります。
庭先で籠の中に閉じ込めておいたスズメを侍女が逃がしてしまったことに
幼い若紫がぐずつく様子を源氏がかわいらしく思う、
という二人の出会いのシーンです。
香りを焚きしめる香炉や伏籠が、
都と離れた北山の地でも生活に根付いていたことに気づきます。

対面で顔を見せることがなかった時代。
焚きしめた香を移した衣ずれで、「誰が袖か」わかった...というほど、
香りが個人やその個性を表現したといいます。
好きな香りを気分や場、季節に合わせて楽しむ私たちですが、
平安時代の人々の実に鋭敏な美の感覚、
自由でしなやかな感性と想像力には驚かされます。

山水蒔絵阿古陀香炉 明治時代末期
Photo YURI MANABE

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