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2023.08.10
しっとりとした漆に蒔絵で橘唐草を散らし
橘、五三桐、蝶、鶴の紋を描き加えています。
どの角度から見ても端正な仕上がりです。
婚礼化粧道具とは、
輿入れさせる娘のために誂えた婚礼調度品のひとつ。
江戸時代初期に体系化され、近代まで作られ続けました。
朱色の紐を解いて箱を開けると、
納められているのは「毛垂(けたれ)」です。
江戸時代、御所ことばでは「剃る」を忌み嫌って「垂る」と表現し
剃刀(かみそり)をこのように呼びました。
女性は眉や襟足を整え、
男性は額や髭を剃るなど、
「毛垂」は身だしなみを整えるための必需品でした。
このような婚礼化粧道具を誂えた上流階級の女性たちには
特徴的な眉化粧の習慣があったといいます。
一定の年齢になると眉を剃り、額に新しく眉を描くのです。
年齢や階級、または儀式などによって
両眉の間は指二本分あける、細く薄く形づくる、
生え際から五分(1.5センチ)下に描く、など
形や位置、描き方まで厳格に決められていました。
眉を剃り落とし、新たな眉を描いたとき
女性たちは自身に期待されている社会的役割を
身体で感じていたのかもしれません。
橘唐草紋散蒔絵婚礼化粧道具 毛垂・毛垂箱 江戸時代後期
Photo YURI MANABE