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2023.01.26
歩くたびにシャラシャラと心地よい音で揺れる簪。
これは「びらびら簪」といい、漢字で「歩揺簪」とも書きます。
聞きなじみのない「びらびら」という名称は
女性たちの歩みに合わせて耳元で鳴る、軽やかな音から付けられました。
簪の先に鎖や鈴などの下げ飾りを垂らしているのが特徴で、
中でも若い女性には、より大振りで華やかなものが好まれたとか。
江戸時代後期には町方の若い娘の間で流行しました。
下げ飾りの鎖をよく見てみると、そのひとつひとつがなんと蝶になっています。
動きにあわせてひらひら、ゆらゆら、優雅に舞っているかのよう。
その内の一匹に目を凝らして見てみましょう。
...なんと精巧な作りでしょうか。
繊細に刻まれた羽模様に職人の技を感じます。
上から見ると、デザインの中心には牡丹の花。
ちりばめられた珊瑚玉がいろどりを添えています。
小さな葉には虫喰いの跡があり、
見惚れるような高い写実表現です。
牡丹の艶やかな花姿は、古くから富と繁栄の象徴として愛されてきました。
結い上げた黒髪の美しさを引き立たせる簪には
吉祥を願う気持ちもこめられていたのかもしれません。
心浮き立たせながら外出を楽しむ娘の表情までもが見えてくるようです。
牡丹珊瑚飾りびらびら簪 江戸時代末期~明治時代
Photo YURI MANABE