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2021.11.11
向かい合う二匹のトンボ。
その体は下に伸びて、櫛の歯になっています。
動物の角を素材とし、羽は淡い緑に着色されたこの櫛は
19世紀末から20世紀初頭にかけて欧米を席捲した
アール・ヌーヴォー様式の髪飾りです。
アール・ヌーヴォー様式の特徴は
動植物をモティーフにしたなめらかな曲線。
なかでもトンボのユニークな形状はデザイナーたちに注目され
家具や調度品、装身具などに用いられました。
この時代にパリで流行していたのは、
ウェーブをかけた髪を小さな髷に結い上げ
髪飾りで固定するポンパドールスタイル。
ドレスは胸部と腰をコルセットで強調した
しなやかなS字型シルエット。
アール・ヌーヴォーの有機的な曲線に呼応するような
よそおいが、パリの街を彩りました。
産業革命を経て、めまぐるしく近代化が進んだ時代。
人々は自然の中にひそむ美しさに目を向け、
日常生活に取り入れていきました。
この時代を生きた人々の美意識が宿る、
トンボの美しい陰影を掘り込んだ髪飾りです。
アール・ヌーヴォー様式 蜻蛉文角製櫛
1900~05年頃
Photo YURI MANABE