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2020.05.14
明治時代の花びらのようなかたちの象牙製の簪。
この丸みを帯びたフォルムには、植物の有機的な曲線を重要視した
アール・ヌーヴォーの影響がうかがえます。
当時のヨーロッパの流行をいち早く取り入れたモダンなデザインです。
なにより目を引くのが、立体的な花模様。
牡丹と菊の花弁が浮かび上がる背景には、
菊の葉が繊細な透かし彫りで表現されています。
葉脈まで刻まれた葉の地紋に小さな菊、
そこに重なるように咲き誇る大輪の牡丹と菊。
角度の変化により陰影が生まれ、気品ある表情を見せます。
この簪は、どのような髪型を飾ったのでしょうか。
明治時代には「日本髪」が依然として結われていた一方、
髪型の洋風化が始まります。
上流階級の間で洋装に似合う「束髪」が登場すると
徐々に一般的になり、全国に普及しました。
やがて大正時代になると、欧米から伝わったコテを使用して
ウェーブをつけてからまとめる髪型が流行し、
「洋髪」と呼ばれるようになります。
簪全体がカーブしているのは、「束髪」や「洋髪」で結われた
頭の丸みに沿う髷の形にあわせて飾るため。
新しい時代を生きた女性たちの
横顔や後ろ姿を彩った優美な簪です。
牡丹菊模様透し彫り象牙洋髪簪、明治時代
Photo YURI MANABE