移築・保存工事を経て、公開される土浦邸(第二)。戦前モダニズム住宅の代表作として高く評価されるこの住宅のみどころとは。
土浦邸正面外観
広がりと連続性をもつ土浦邸の空間は「階段」によってつくられている。
土浦邸の建築面積は60平米に満たない。しかし高低差がある土地の個性を活かし、屋内外5つの小階段を設置。地下1階から地上2階まで、中2階を含む四層のフロアを実現したことで延床面積は172.2平米(移設後は、地下機械室も含め191.36平米)にもなる。廊下をつくらず階段によって各部屋をつなげることで居住空間の広がりを実現させている。亀城の「立体的な解決で、あまり扉がなくてもプライバシーのあるものをつくろう」(注1)という言葉に既存の概念を破る企図がみえる。
玄関のベンチ
居間からソファーとギャラリーを
のぞむ
光に満ちた土浦邸を象徴するのは、居間にある高さ約4m× 幅約3m もの大きな窓。南から豊かな光と温かさを取り込んでいる。
邸内には地下フロアを含めたあらゆる場所、すべての部屋に大小さまざまな窓がつくられ、自然光が入ってくる。窓は画一的なつくりではなく、部屋ごとの暮らしに寄り添う設計がされている。
居間の窓
居間は吹き抜けになっている
当時の日本住宅では浴室や女中室は軽視され、暗く寒い北側に位置するのが一般的だった。しかし土浦邸では北向きの地下浴室には天窓を、南面する女中室にも大きな窓を配していて温かい空間づくりを大切にした。家主だけではなく、ともに住まう家事担当者の快適な生活に配慮する夫妻の姿がみえてくる。
また各空間の用途にあわせてきめ細かい設計を行う姿勢が、採光とプライバシー保護を両立させた玄関扉の梨地ガラスや、作業の手元を明るくするため、シンクのサイズに合わせて設計した台所の窓にも表れている。
機能性を重視し豊富な収納を備えた台所
窓からの光が手元を明るく
照らすシンク
まな板は調理台に収納
土浦邸に完備されている暖房設備や給湯設備、洋式水洗トイレ、タイル張りの浴槽にシャワーを備えた浴室は、当時の都市部においても希有なものだった。加えて亀城は戦前の個人住宅にして天井パネルヒーティングに挑戦している。これらの設備を実現した背景には、3年にわたるアメリカでの生活が影響している。アメリカではどの街でも暖房や給湯設備が一般的であることに感銘を受けた夫妻は、この便利な生活を日本でも実現したいと考えたのである。日本における現代的な生活空間のはじまりを、土浦邸の設備から見出すことができる。
邸内にはさまざまな暮らしのアイデアがあふれている。
日常的に洋装していた夫妻や友人たちが靴の着脱をする、その時間が「心地よい」ものであるようにと玄関には暖房機能付きのベンチを設置。また「合理性」を追求し、郵便物を屋内で受け取るための郵便受けを外壁に作りつけ、台所には収納と機能性に優れたシステムキッチンを設置した。まな板や調理器具をスマートに収納し、シンクには錆や汚れに強い最新素材であったステンレス(注2)を採用した。
さらには「省スペース・効率」という観点からの発案も多い。台所から料理を直接食堂に渡せる小窓や、台所と食堂どちらからでも使用できる回転式の電話台、女中室の壁に格納されたアイロン台、写真現像の暗室としての利用ができる洗面台などたくさんのアイデアがちりばめられ、それがくらしを快適にしてきたことがわかる。
玄関作り付けの郵便受け
上階からギャラリー、居間をのぞむ
ギャラリーから寝室をのぞむ
寝室の奥には化粧台を設置
女中室のアイロン台は壁に格納可能
最先端設備を備えた浴室
上階の洗面所
「T」のイニシャルマークつきカップ
撮影:上村明彦
土浦邸で使用されていた花器類
撮影:上村明彦