浮世絵にみる江戸美人のよそおい
安政4年11月~安政5年5月にかけて出版された「江戸名所百人美女」は、奥女中、遊女、芸者、町女房などが、名所と関連付けて描かれています。上は大名の姫君から下は夜鷹まで、と登場人物は実に多彩です。美人画は豊国が描き、こま絵は門人であり、豊国の三女の婿でもある歌川国久が担当しています。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。菅笠を被っているのは門附の女太夫です。浄瑠璃などを語りながら三味線を弾いて門附をして歩いたのです。菅笠の下には島田髷が見えます。着物の裾が邪魔にならないよう、赤いしごき帯をきゅっと結び、帯にも赤い帯締めが見えています。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。上半身裸で肩に手拭を掛けているのは遊女でしょうか。唐人髷(横兵庫から変化した髷の根の低いもので遊女の髪型)に珊瑚の玉簪、前髪に櫛を差し込んでいます。鈴のついたにぎりバサミで爪を切っているところ。羽子板の形は爪やすりのようです。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。神棚に手を合わせているのは、天神髷にお歯黒の遊女のようです。若い娘のように小さくくくった前髪が左右にはねていますが、顔つきはやや年を重ねているよう。打掛は源氏香柄が赤い絞りのように描かれ、裾回しには片輪車と葵が描かれています。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。左手に懐紙を巻き、右手に懐中鏡を持っているのは長唄の師匠のようです。着物の紋は「三つ並び杵」で長唄家元と同じであり、裾模様にも杵が使われています。中着も三味線の駒と巻かれた糸の柄。わずかな時間に化粧直しをする工夫が伝わってきます。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。凛とした姿で立っているのは武家の若い娘。花の両天簪に高島田です。右下には茶碗に茶筅、茶杓があり、これからお茶を点てるところ。平十郎結びにした唐花紋の帯には赤い袱紗が挟まれていて、教養の一つとして心得ていたのでしょう。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。上半身裸のまま、金盥に水を張り、解き櫛で髪をほぐしている若い娘。洗髪用の解き櫛と髪を結い上げるための櫛は別物でした。櫛だけではなく、花模様の糠袋、櫛払い、手拭なども見えています。洗髪は、洗うことだけでなく、乾かすまで大変な仕事でした。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。駕籠に手をつく女性は商家の妻女でしょう。子供がいる証拠のお歯黒に眉無し、髪型も既婚女性が結う「しの字髷」です。王子稲荷に参詣し、料理茶屋で食事でもしたのか、口元には楊枝をくわえています。肩の手拭は埃除けに頭にも被ったようです。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。豆絞りの手拭を被った島田髷の女性と頭巾を被った女性は2人とも夜鷹とよばれた最下級の遊女です。二人の衣装や雰囲気には差がありますが、夜鷹は黒い着物に、吹き流しにした手拭を口にくわえ、茣蓙や番傘を抱えている姿が描かれています。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。鏡が池には、謡曲「隅田川」に登場する梅若丸の母、妙亀尼が子供の後を追って、この池に身を投げたという伝説があります。この絵の竹を担いでさまよい歩く女性は妙亀尼でしょうか、お歯黒をして髪は長く垂らしています。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。牡丹に桜、菊に梅、そして杜若といった四季の花を散りばめた総模様の豪華な打掛と無地朱の振袖をまとうのは大名家の姫君のようです。島田髷にびらびらのついた桜模様の花簪、鼈甲と思われる櫛と後ろ挿しも身に着け、まさに身分の高さを感じさせます。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。眉を落とし、切り髪で香を聞いているのは武家の未亡人でしょうか。香道では匂いを嗅ぐ、とは言わずに「聞く」といいます。手前には火道具類や硯などが見えます。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。湯上りなのか、手拭を首筋に当てている年増の女性。お歯黒をし、眉は剃りたてなのか青眉です。「しの字髷」は既婚女性の髪型で、櫛を横に挿している姿はお妾といった風情。杯洗に浮かぶ猪口や白い腕、脱ぎ捨てた着物などに独特の雰囲気が漂います。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。島田髷の若い娘が赤い糠袋で襟足を洗っている様子。熱いお湯に浸してぎゅっと絞り、胸のあたりまでキュキュと洗い、その後お湯で流します。金盥からは湯気が立ち、右手には黒い鏡台も。これから化粧を始めるのでしょうか。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。天神髷に格子柄の着物の若い女性は料理屋で働く娘でしょうか。まだお歯黒をしていません。左手には折りたたんだ懐紙、懐紙を持ち、右手で襟足の汗でも拭いているところのようです。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。打掛の女性は高位の御殿女中。埃よけの揚帽子に片外しを結っています。身分の高い御殿女中は一生奉公(里帰りできない)ため、嫁いだ時と同様にお歯黒をして眉を剃ったのです。しごき帯、重ね草履を身に着け、増上寺への代参でしょうか。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。片外しの高位の御殿女中が懐紙をくわえ、しどけない姿で手を拭く様子。寛永寺への代参のあと、不忍池の出合茶屋で密会でもしたのでしょうか。襦袢姿、裾の乱れや髪のほつれに、なにやら江島事件を思い出させるあやうい雰囲気が漂います。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。手で眉を吊り上げ、剃刀で顔を剃っているのは料理屋の女でしょうか。髪型は潰し島田で絞りの手絡をしています。脇には新品の「花の露」があり、これから開封するのかもしれません。白粉ののりつきをよくするためのお手入れのシーンです。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。「しの字髷」の結っている女性は商家の人妻風。竹の節のような太い笄は鼈甲製かもしれません。釣竿がもう1本左側に見えており、連れがいるよう。お盆の上には菊が描かれた大きな鉢に食事の用意がしてあるのか、箸も添えられています。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。大きな潰し島田に長い鼈甲のような笄。懐紙を口にくわえた口元にはお歯黒が見えます。寝起きに帯を結んでいる途中なのか、着物はまだ布団に引っかかったまま。大きな雨龍が描かれた立派な布団からみて座敷持ちの高位の遊女のようです。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。黄八丈のように見える着物に紫色の梅模様の中着を2枚重ねているのは、元旦の初日の出を拝みに来た若い娘。お歯黒もなく、眉も剃っていません。寒いのか手は袖の中。縮緬などで作った御高祖頭巾を被り、首には防寒に手拭を巻いています。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。三越の前身である、日本橋本町の越後屋の店先で反物を選んでいる若妻。眉があり、お歯黒をしている半元服の姿です。近くの火鉢には越後屋の印「丸に井桁の三」が描かれています。どれにしようか、迷う時間も楽しい時間です。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。前髪に櫛を挿し、島田髷に結っているのは浅草寺仁王門の手前にあった二十軒茶屋の看板娘。縞の着物に献上博多の帯を平十郎結び、裏は紅地の三筋格子です。帯に挟んだ手拭には都鳥、右手に持った茶碗にも千鳥が描かれています。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。縦縞の着物をしどけなく着て、盥の水で足を洗っているのはまだ若い娘。お歯黒なしで眉も剃っておらず、未婚女性の結う潰し島田です。遠くの染井(現在の豊島区駒込)まで出かけ、今を盛りの菊を見てきたのでしょうか。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。遊女は貝髷に長い笄。右手に簪をつけたかもじを持ち、左手には長い煙管を持っています。二つ重ね雁金の紋入りの打掛は高位の遊女でしょうか。髪を結う前にかもじに簪を挿しておいたことがわかる貴重な資料です。髪への負担を軽減できるのです。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。左の二の腕に腕守りを巻いているのは若い芸者のようです。左の箱は三味線の糸でしょうか。潰し島田に前髪は短く括り左右にはねています。腕守りの中味はお守りの札で、見えない二の腕にすることで粋で洒落た装身具になっています。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。松葉に裏梅の縦縞模様の着物で裸の子供をあやしている母親。眉無しで髪型は割鹿子あるいは天神髷でしょうか。脇の籠の上には子供が着ていた着物を掛けており、炭をおこした火鉢で温めているようです。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。背中に葛篭を背負っているのは女巡礼。眉無しでお歯黒をしているものの、未婚女性の髪型である島田髷をしているところをみると、身内に不幸があり、巡礼をしているのかもしれません。右手に柄杓と数珠、左手に朱印状を持っています。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。剃ったばかりの青眉にお歯黒の嫁いだばかりの若妻でしょうか。赤い櫛を挿し、しごき帯に縞の前垂れ姿です。左手で茶店の空いた席でも指さしているのでしょうか、亀戸天神の参詣客を呼び込んでいるようです。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。布団に足を突っ込んで長い煙管を立てている女性は後家でしょうか、眉無しで髷も短く切っています。箱枕や蒔絵が描かれた煙草盆、簪にも木瓜紋が描かれています。裕福な隠居の姿は、どこか華やかさ、艶やかさを感じさせます。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。鏡掛の前で潰し島田に笄を挿しているのは芸者でしょう。二の腕には腕守りが見えます。鏡掛の横には、刷毛や瀬戸物の容器が入った化粧箱や簪の入った箱などが見えます。化粧が終わり、普段着から仕事用の着物に着替えて、出勤です。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。象牙の撥をくわえ、三味線を取り出す辰巳芸者。潰し島田に鼈甲のような長い笄に簪を左右4本挿しています。これから座敷に向かうところでしょうか。芸一つで身を立てている姿が粋に映ったのか、渓斎英泉も好んでその姿を描いています。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。こま絵にある厄除けのお祖師さまで知られる妙法寺(杉並区堀之内)に参詣する若いお内儀は、青眉に丸髷、お歯黒姿です。肩に珊瑚のような数珠をかけ、手にはお百度用の藁しべを持っているようです。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。桜や菊、牡丹に菖蒲といった四季の花々を配した振袖と宝尽くし模様の帯は、富裕な家のお嬢さまのよそおい。島田髷に派手な両天簪を挿し、赤い手絡や前髪括りが若々しさを表しています。傘の男は、神社のいわれでもある「雨乞い」から描かれたのでしょうか。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。上半身をあらわにし、襟足を見ているのは柳橋芸者。白粉を首筋から胸元まで塗ったところで念入りに確かめているようです。鏡台には牡丹刷毛や紅猪口が、また箱の中には白粉包みも見えています。座敷に出向く前の真剣な時間です。
×
三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。派手な髪飾りのついた稚児髷の禿が遊女の長い髪を梳いています。遊女はちぎれた手紙を読んでいます。まずは禿が髪を梳き、その後、女髪結が結い上げます。禿の無邪気であどけない仕草が、吉原が苦界であることを忘れさせるようです。
第一章化粧の情景
第二章髪化粧の情景
第三章遊女のよそおい
第四章江戸女のよそおい
第五章花嫁のよそおい
第六章江戸名所百人美女
第七章化粧道具
第八章婚礼化粧道具
第九章紅化粧
第十章白粉化粧
第十一章眉化粧
第十二章髪飾り