浮世絵にみる江戸美人のよそおい
長い髪を技巧的に結い上げていた江戸の女性たち。その結髪風景も浮世絵に描かれています。一方、腰まで届く長い髪の手入れ、特に洗髪は、現代のような給湯設備やドライヤーがない時代には大仕事でした。300種を超すともいわれる多彩な髪型の造形には、江戸時代のヘアスタイリスト、髪結(かみゆい)が活躍しました。
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香蝶楼国貞画。長い髪はこのような前かがみの恰好で梳いていました。右手には唐櫛という両歯の解き櫛を持ち、畳紙の上には、にぎりバサミ、ブラシのような櫛払い、毛筋立て、元結、解き櫛などが置かれています。
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国貞改二代歌川豊国画。黒い鏡台の前で、両肘まで見せながら髪を一束にまとめているのは、まだ若い娘でしょう。口にくわえているのは元結です。鏡台の中には「うす桜」と書かれた白粉包みが見えています。
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豊原国周画書き上げたばかりの手紙を手に、禿から煙管を受け取っている遊女。貝髷の女髪結は、商売道具の毛筋立てを挿し、これから髷を作るところでしょうか。遊女たちにとって女髪結はなくてはならない存在。身だしなみに相当の投資をしていました。
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溪斎英泉画。若い娘は鼈甲のような簪をじっと見ていて、この簪がずいぶん欲しい様子。江戸前期から、髪飾りの中でも鼈甲で作られた櫛、簪、笄は女性の一番の憧れでした。特に斑のない白鼈甲は高値の花。鼈甲に似せて、馬爪、牛爪で作ったものも喜ばれたといいます。
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歌川豊国画。襷をかけた眉無しの女髪結は、元結を前垂れにはさみ、歯で噛んでという仕事ぶり。右端の潰し島田の遊女は支度ができ、左手で褄をとっています。三味線を弾く遊女の髪型は後ろ襟のあたりで無造作に結ぶ「じれった結び」。左はしばしの休憩のようで、遊郭の午後の風景です。
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朝櫻楼国芳画。長い髪を無造作に巻き上げているのは海女でしょうか。桐に花模様が絞りになっている浴衣の上に腰蓑を巻いており、口には髪を巻きつける笄をくわえています。「へ」は磯辺、「邊」は大神宮のほとりという意味のようです。
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五渡亭国貞画。母親らしき女性が子供の髪を芥子坊に結っています。江戸時代は、生まれて7日目に髪を剃り、3歳の11月15日に髪置きの儀式を行います。これ以降髪を伸ばすのですが、民間では少しばかりの髪を残して「芥子坊」という髪型にしたようです。
第一章化粧の情景
第二章髪化粧の情景
第三章遊女のよそおい
第四章江戸女のよそおい
第五章花嫁のよそおい
第六章江戸名所百人美女
第七章化粧道具
第八章婚礼化粧道具
第九章紅化粧
第十章白粉化粧
第十一章眉化粧
第十二章髪飾り