溪斎英泉画。こま絵には宴席に関わる杯洗、鉢が見えるので若い芸者の姿でしょうか。携帯用の懐中鏡を手に化粧直しの最中かもしれません。唇は当時流行した笹色紅が。高価な紅をふんだんに使えたファッションリーダーの心意気が見えるようです。

五渡亭国貞画

応需 歌川豊国画。和泉式部を母にもつ小式部内侍の「大江山」がこま絵に描かれていますが、鏡台の前で眉化粧をする女性との関係は不明。鏡箱の上には蝋燭が置かれ、当時の人たちも化粧をするのに明るさを求めたことがわかります。役者の鏡台でも同じような仕掛けが見られます。

香蝶楼国貞画。右側の棚には福寿草や梅の鉢なども見え、妓楼の正月風景でしょう。潰し島田に鼈甲のような長い笄と櫛簪を挿し、鏡台に向かう女性はこれから化粧を始める様子。鏡台の脇には白粉の美艶仙女香が置いてあり、嗽茶碗や引き出しの中には元結も見えます。

応需　国貞改二(三)代豊国画

一勇斎国芳画。合せ鏡を見ている若い娘は、襟白粉のつき具合を見ているところでしょうか。髪型は大きな潰し島田で赤い手絡を髷に巻き、娘ならではの短く切った前髪が左右に跳ねています。白地に蝶を描いた着物に博多献上帯、初夏を感じるよそおいです。

五渡亭国貞画。天神髷に鏡箱を持った女性は遊女でしょうか、後ろには吉祥模様の蝙蝠が描かれた手拭と枕屏風が見えます。「当世薄化粧」とは江戸時代後期の化粧の流行を言ったのでしょうか。一般には京阪よりも江戸の方は薄化粧をよしとしていました。

五渡亭国貞画。立膝で顔剃りをしている天神髷の女性。鏡台の上には剃刀箱、簪、水の入った茶碗と横櫛。箱の中には紅のついた房楊枝と歯磨き粉が無造作に置かれ、引き出しには毛筋立てや解き櫛が、鏡台の右側の鏡箱の上には美艶仙女香の包み紙も見えます。

一陽斎豊国画。肩に前垂れを掛けて、紅猪口を持った洗い髪の女性は遊女でしょうか。こま絵には紅花、小野小町とその歌が描かれているので、手にした紅猪口は文化頃に売り出された「小町紅」かもしれません。

溪斎英泉画。朝寝坊をして身支度もこれからなのは左側の女性。達磨返しという髪型です。長い房楊枝に紅入り歯磨き粉をつけて磨くところ。右側の潰し島田の若い女はすでに化粧もすませています。下唇が緑色で、文化文政頃に大流行した笹色紅をしています。

一勇斎国芳画。紅い糠袋のついた算盤絞りの手拭を手にした遊女の足元には房楊枝、嗽茶碗などがあり、朝の様子でしょう。寝起きのようで髪が乱れていますが、島田髷にお歯黒もしておらず、若い女性のようです。着物の襟に「宝」の文字が入っています。

香蝶楼豊国画。縞の着物に潰し島田の女性が大きな盥に水を張り、手拭を絞っています。盥の縁に掛けているのは糠袋、ちょうど洗顔が終わったところでしょうか。後ろには黒の鏡台が見えています。これから組み立てて化粧を始めるのでしょうか。

溪斎英泉画。美艶仙女香と書かれた看板をじっと見ているのは粋筋の女性でしょうか。潰し島田に挿した笹を飾った竹節の簪が印象的です。「婦じ美多意（ふじびたい）」とは白粉化粧の中でも美人の代名詞といえるもので、額の生え際の美しさをほめた言葉です。

歌川豊国画。吉原遊郭の遊女たちの身支度の様子を描いた浮世絵です。中央の女性は、お歯黒の後なのか耳盥を前に、房楊枝で舌かきをしています。

香蝶楼国貞画。遊郭の２階の化粧部屋の風景。右側の遊女は既に化粧は終わっており、潰し島田に長い笄を挿しています。真ん中の遊女はこれから洗顔するのでしょうか、嗽茶碗を持ち、房楊枝の先を噛んでいます。左の遊女は鏡台に肘をつき、楊枝をくわえています。

歌川広重画。左に見えるのは浅草駒形堂の屋根、右手の赤い旗は化粧品店、中島屋百助の幟看板です。空高く飛ぶのは杜鵑で、吉原の遊女二代目高尾が、今しがた別れたばかりの客、仙台藩主伊達網宗に送った「君はいま駒形あたり時鳥」に因んだのでしょう。

一勇斎国芳画。久米の仙人は伝説上の人物。空中飛行の術を学ぶのですが、吉野川の岸辺で洗濯をしている若い娘の白い脛に見惚れ、神通力を失って墜落。江戸時代、この久米仙人の話になぞらえ、町家の娘が内ももまで白粉を塗ったという話がありました。