美しさへの挑戦
江戸後期に発行された『都風俗化粧伝』には、白粉を中心にした化粧法、紅、お歯黒、眉作り、さらに修正メークまで詳しく書かれています。そのための必需品が化粧道具と化粧品。化粧道具は身分や階級による格差が大きく、上流階級の公家や武家では漆に蒔絵の施されたもの、一般庶民は蒔絵も素朴で、実用第一のものでした。
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「旅櫛箱」という名であるものの、筆記用具まで収められた携帯用の化粧箱です。上段には折りたたみ式の鏡掛けを収納、下段には水滴と硯が備えられています。中段の引き出しには、鏡、白粉箱、刷毛などの化粧道具を収めていたようです。
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お歯黒壷、嗽茶碗、五倍子箱、お歯黒筆、耳盥までそろったお歯黒道具一式です。お歯黒は結婚が決まると歯を黒く染めた習慣で、成人女性としての通過儀礼でもありました。黒は他の色に染まらないことから貞節のしるしであるとされました。
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渡金(わたしがね)箱には、お歯黒に使用する渡金をはじめ、必要な道具類が収納されていました。
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江戸時代の上流階級では、眉を「描く」と言わずに「作る」といったことから、眉化粧の道具を収める箱を「眉作箱」と称したと考えられます。中には、刷毛、筆、袖なり、しんさし、横おしといったヘラ類などが収められています。
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持ち運びが便利な折りたたみ式の鏡箱。鏡はこうした箱に収めて使用しました。大中小3つの大きさの鏡箱があり、大きな鏡は少し離れて、姿見としても利用したと考えられます。この道具類には唐草は描かれておらず、紋散らしの文様です。
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引き出し付きの箱の上部に、鳥居のように差し込む形の鏡台です。このような形の鏡台は室町時代頃に作られたと考えられ、柄鏡ではなく、円鏡を掛けて使用したようです。
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鏡台に掛けて使用された円鏡とそれを収納していた円鏡箱。鏡は凸レンズになっていて、のぞいてみると顔が少し大きく映ります。化粧の仕上がりをしっかり確かめたいという思いが道具の形に表れているようです。
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化粧に必要な材料を用途別に仕分けて収納していた小箱です。
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髪油を入れておく容器です。
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白粉化粧に使う刷毛と、生え際や額に使う刷毛が別途に用意されています。また紅や眉化粧に使われる筆類もそろっています。刷毛には鹿や兎の毛が使われていました。
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鳥籠のような伏籠の中に香炉を置き、籠の上に小袖や打掛などを掛けて香りを焚きしめます。香水などなかった時代の香りの楽しみ方です。古くは源氏物語にも伏籠は登場します。
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毛垂とは剃刀のことで、それを収納する箱を毛垂箱とよびます。刀の部分は「への字」型の両刀です。顔や眉を剃ることは、白粉化粧や眉化粧の基本であったのでしょう。
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爪切り用の小刀が納められていたと思われる爪切り箱ですが、今は残っていません。御殿の上流階級では辰の日に爪を切ったようです。浮世絵には、庶民の女性がハサミで爪を切っている様子を描いたものもあります。
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桶盥と湯桶は、化粧だけでなく広い用途で使用されており、御殿女中にとっては年中行事に使用する大事な道具でもありました。《千代田の大奥》の「おさざれ石」の、正月三日、御台所がお湯を手で受けるというお清めの式でこの桶盥と湯桶が登場しています。
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角盥は手や顔を洗うのに使用したもの。角のような取っ手は着物の袖を濡らさないために袖を掛けたともいわれています。
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楾は湯水を入れるための容器です。江戸時代以前の絵巻物によく描かれていましたが、この頃になると実用というよりも形式的な道具となっていたようです。
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京都紅平製
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近藤太陽堂製。紅花から作った紅は、猪口や皿の内側に塗った状態で販売されていました。ぬらした筆や指などで唇にのせます。紅猪口に蓋はなく、使わない時には伏せて置くことで紅の退色を防いでいました。
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応需 国貞改二(三)代豊国画
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溪斎英泉画。こま絵には宴席に関わる杯洗、鉢が見えるので若い芸者の姿でしょうか。携帯用の懐中鏡を手に化粧直しの最中かもしれません。唇は当時流行した笹色紅が。高価な紅をふんだんに使えたファッションリーダーの心意気が見えるようです。
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佐山半七丸[著]、速水春曉齋画図
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重村近江大掾藤原保方製
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群芳館製
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和泉屋製
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色とりどりの三段重。白粉を入れたり、水を入れたり、濃さを調節したりと、機能性を併せもった美しい化粧容器です。白粉は刷毛や手でのばしましたが、江戸では薄化粧を、京阪では濃化粧を好んだと言われています。
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水で溶いた白粉はすぐにのばさないと斑になってしまうので、牡丹刷毛で手早く広げて塗布しました。鼻にスッと白粉を塗り、鼻筋を高く見せるテクニックもありました。首筋の白粉は顔よりも濃く仕上げ、顔を浮き立たせ美しくみせるよう工夫していました。
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歌川豊国画。吉原遊郭の遊女たちの身支度の様子を描いた浮世絵です。中央の女性は、お歯黒の後なのか耳盥を前に、房楊枝で舌かきをしています。
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耳盥の下に台輪を置いて、歯を染める際に屈まなくてもよいように底上げしています。鉄漿壺に作った鉄漿水は、毎朝使う分だけ鉄漿次に入れ温めます。お歯黒は渋かったので、嗽茶碗でうがいをしました。婚礼化粧道具のお歯黒道具と比べると、蒔絵や意匠も簡素です。
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五渡亭国貞画
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眉刷毛、袖なり、しんさし、横おしといった眉化粧に使用するヘラ類などのほかに、白粉箱、化粧香合、油桶、鬢水入れ、三つ櫛などを含んだ化粧道具一式です。つくりや装飾などから、上流階級のものと考えられます。
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元禄4年(1691)水嶋卜也が著した『化粧眉作口伝』の写し。儀礼の場にふさわしい眉の描き方や眉作りのためのさまざまな道具、使い方が書かれています。
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和裁は女性の教養のひとつでした。小さい頃から親や師匠から習っており、その意味でも婚礼道具には必要不可欠な道具であったといえます。色とりどりの絹糸と赤い針山が当時の色を伝えてくれます。
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折りたたみ式の絎台で、下部は座布団の下にはさんで安定させるしくみ。絎台に針山がついた形もありますが、これはシンプルな形です。布をピンと張りながら針を進めていく様子が浮かんできます。
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いつも身近に置き、懐紙などを載せたと思われる塗り物の台。櫛台ともよく似ていますが、柱のつくりが華奢になっていて、ひと回り小ぶりで洗練された印象です。
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化粧道具というよりも、香道の席で、香の名前を記したものでしょう。小さな硯と水滴が収納されています。江戸時代の婚礼化粧道具でも香道具の中に組み込まれているものが多いようです。
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お菓子を盛って客人に出す容器の一種。衣装箪笥に似せて小型につくり、漆を塗って家紋を入れました。小さな干菓子などを載せて使用したのかもしれません。
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江戸時代の型をそのまま踏襲しています。手ぬぐいが落ちないように留め具もついています。
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お歯黒に使う五倍子箱などがなくなり、代わりに銀製の化粧皿が登場するのが明治の化粧道具らしい特徴ですが、明治も中頃になると透明な瓶に入った化粧品が登場し、これらもやがて姿を消していきます。
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白粉を塗る際に使用した水刷毛、板刷毛、牡丹刷毛を吊り下げて水気を切るのための台です。牡丹刷毛だけ刷毛の色も違っていて新しいようです。頻繁に使っていたので後から買い替えたのかもしれません。
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櫛や化粧道具を上部の台部に載せたり、下部の引き出しに収納したりと身近に置いて便利に使用したようです。
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ガラス製の八稜鏡の縁は面取りがされていて、実用面だけでなく、菊結びされた華やかな赤い紐が道具の美しさを感じさせます。直径は約30cm、かなり重い鏡は、一枚は手に持ち、一枚は鏡掛に置いて使用したのでしょう。
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鏡の縁が面取りされ、丁寧に作られたものであることがわかります。縦20cmに満たない小ぶりの鏡は、口紅などをつける時、顔に近づけて使用したものかもしれません。
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ガラス鏡を掛けて使用したもので、座敷に置いておくだけでも優雅な気持ちにさせてくれます。身だしなみを整え、化粧や髪型、衣装などの最後のチェックをするのに便利な角度になっています。
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三代歌川豊国画、歌川国久(こま絵)。眉を落とし、切り髪で香を聞いているのは武家の未亡人でしょうか。香道では匂いを嗅ぐ、とは言わずに「聞く」といいます。手前には火道具類や硯などが見えます。
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掛袱紗、聞香炉、火道具、火道具建など50点近い道具が収納されています。競馬香や矢数香などもゲーム感覚で楽しめました。中には、拝領品なのでしょうか、三つ葉葵の紋のはいった掛袱紗も収められています。
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雅な雰囲気を漂わせている御所車(牛車)の形をした香炉です。見かけは香炉には見えませんが、車の中は銅板になっており、上部の2つの穴から香りが立ち上ってきます。高価な香木と御所車で高貴な香りの世界を表現したのでしょう。
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鳥籠式よりも簡易なつくりの櫓式の伏籠。どちらも中に火取香炉を置き、衣服を掛けて香りを焚きしめたものです。黒漆だけで蒔絵は描かれていませんが、このような道具は、上級階級か富裕な商人の家で使用していたものでしょうか。
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上部に烏帽子型の網がかかっている火取香炉で、中世の絵巻物にも見られる型です。伏籠の中に置いて香を焚きしめました。香水のなかった時代の優雅な習慣といえます。
第一章化粧道具
第二章近代の化粧 明治~大正時代
第三章コンパクト
第四章近代の化粧 昭和時代
第五章鏡と鏡台の変遷
第六章江戸時代の髪型と髪飾り
第七章近代の髪型と髪飾り
第八章装う
第九章千代田の大奥