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2023.07.13
明治から大正、昭和にかけて、女性の髪型は劇的に変化しました。日本髪に代わる髪型として明治18年に「束髪」が登場して以降、大正10年代には髪にウェーブをつけて結う「洋髪」、さらには文字通り髪を短く切った「断髪」まで。100年程の間に、次々と新しいヘアスタイルが登場しています。
260年以上もの長い間、ずっと日本髪が主役であった江戸時代とは対照的な、目まぐるしい新旧の交代劇。これは近代日本に起こった、急激な西洋化という歴史的な動向と重なっています。社会制度や政治、生活に押し寄せた西洋化の波は、服装や髪型、化粧、美容の分野にも及び、ついには女性の美意識をも変えていきました。
直毛の黒髪とは異なる、ウェーブがかった明るい髪の魅力。日本女性でもその美しさを手に入れることを可能にした、染毛やウェーブ技術の導入。髪への意識を変えたのは、理美容技術の近代化と「長い黒髪こそ美しい」という美意識からの脱却でした。
そしてもうひとつ、女性と髪型の関係性の変化です。江戸時代、女性の髪型は身分や階層、ライフステージよって多くのルールがあり、好きな髪型を自由に選べたわけではありませんでした。しかし近代以降、女性の地位向上や社会進出が進み、生活スタイルも変化したことで、女性たちは少しずつ、自分に似合う、おしゃれな髪型を楽しむ自由を手に入れていきました。社会慣習に則った従属的な髪型から、おしゃれを楽しむ自発的な髪型へ。現代に続く自己表現としての髪型のはじまりは、近代化とともにあったのです。
『顔をかへるお化粧の仕方』 三須裕 大正15年(1926)
※このコンテンツは2015 年から2018 年にポーラ文化研究所Web サイトにて連載していた「やさしい日本髪の歴史」を2019 年から2023 年まで一部改訂再掲載したものです。