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2021.07.08
髪型、髪のお手入れ、髪結いと、日本髪の基礎知識についてお話してきたところで、ここからは応用編! 髪型と合わせてファッションにも注目してみましょう。
今回取り上げる浮世絵の女性の髪型は、江戸時代末期に結われた「丸髷」です。
「丸髷」は、江戸時代初期に登場した武家の雰囲気漂う「勝山髷」の流れをくむ髪型で、もっぱら既婚女性が結ったもの。若い人は大きく、年配の人は小さくと、年齢によって髷の大きさや厚みが変わります。この女性の髷は大きくふっくらとしているので、町家の若いおかみさんといったところでしょうか。櫛、簪(かんざし)、笄(こうがい)を挿しておしゃれをしています。
着物は、一面に細かい文様を散らした紺色の小紋(こもん)。中に着ている襦袢(じゅばん)の襟も濃紫色と、渋い色合いで、地味な雰囲気ですね。というのも、江戸時代は身分社会。身分ごとの規制やしきたりに沿った髪型や服装が前提でした。奢侈禁止令も出され、庶民が派手によそおうことはご法度!だったのです。
《江戸名所百人美女 駿河町》(部分) 三代歌川豊国 安政4年(1857)(国文学研究資料館撮影)
ですが、もう一度彼女の着物をじっくり見てましょう。ただの幾何学模様に見えて、実はヤジロベイのような人形がびっしりと描かれています。襦袢の襟は、「卍(まんじ)」の字を変形した「卍崩し」。色彩は地味ですが、実はとても凝った柄を組み合わせた粋なよそおいなのです。
髷の大きさや厚みのちょっとした変化。渋い色と凝った柄の組み合わせ。庶民の女性たちは、華やかなものを身に付けることはできなくても、よく見るとすごいファッションを楽しんでいました。髪型と着物のトータルコーディネートですね。幕府の禁令をかいくぐる江戸女性の心意気と工夫から、「粋」なおしゃれが生み出されたのです。
《江戸名所百人美女 駿河町》 三代歌川豊国 安政4年(1857)(国文学研究資料館撮影)
※このコンテンツは2015 年から2018 年にポーラ文化研究所Web サイトにて連載していた「やさしい日本髪の歴史」を2019 年から2023 年まで一部改訂再掲載したものです。