013
2021.04.08
前回も登場した『都風俗化粧伝』(みやこふうぞくけわいでん)は、江戸後期に発売された総合美容読本です。メーク法やスキンケア法はもちろんのこと、着付けや所作にいたるまでイラスト付きで解説した分かりやすさが好評を博し、大正時代まで読み継がれるロングセラーとなりました。この"江戸美人のバイブル"ともいえる『都風俗化粧伝』の中から、江戸時代ならではの髪のお手入れ法をご紹介しましょう。
『都風俗化粧伝』(部分) 佐山半七丸著 文化10年(1813)
鏡の前に道具を広げ、髪を解きほぐして櫛でとかしている。
まずは、虱(しらみ)を取り去る方法。銅や水銀でできた専用薬、大風子油(だいふうしあぶら・東南アジア産の高木ダイフウシの種子油)、辰砂(しんしゃ・硫化水銀)を酢に溶いた汁、鳥頭(うず・トリカブトの根)をつけた水などを使った方法が記されています。なんと!虱の駆除。これは月に1~2回しか洗髪できなかった時代だからこそ必要なケアでした。
変わり種は「髪はえ薬の伝」。数種類の薬草を胡麻の油で溶いて地肌に塗るのですが、「指に付いてしまうと指に毛が生えるので、ヘラで塗ること」といった注意書きも! 怖いくらいの効き目ですね。日本髪は、土台となる髷を作るため、髪の根元をギュッと結ぶ必要がありました。四六時中髪が引っぱられるため、結っている部分の髪がうすくなってしまう女性も少なくなかったのだとか。
他にも「白髪を黒くしてツヤを出す薬」「若白髪を治す薬」「ニラのように乱れた髪を美しくする薬」などなど。美しい黒髪で結い上げられた芸術的な髪型の陰には、女性たちの悩みや苦労や努力があったようです。
『都風俗化粧伝』(部分) 佐山半七丸著 文化10年(1813)
日本髪の形は実にさまざま。左は「両手髷」、右は「ばい髷」。
※このコンテンツは2015 年から2018 年にポーラ文化研究所Web サイトにて連載していた「やさしい日本髪の歴史」を2019 年から2023 年まで一部改訂再掲載したものです。