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2019.07.11
現在の口紅やリップグロスといえば、スティックタイプが主流ですね。それでは、江戸時代の紅化粧アイテムはどのようなかたちのものだったのでしょうか。
江戸時代に流通し、室内で用いられていた紅化粧アイテムが、「紅皿」や「紅猪口」です。今回ご紹介している浮世絵、一陽斎豊国による《模擬六佳撰》(嘉永元年、1848年)に描かれている遊女が左手に持っているものが紅猪口です。小皿やお猪口の中に紅が塗られた状態で販売され、それを水で濡らした筆や指で溶いて使っていました。
一方で外出時に携帯できるアイテムとして、「紅板」というリップパレットのような道具もあります。こちらは持ち運びしやすいように手のひらに乗るほどの大きさで、二つ折の板状や薄い箱型の形状をしています。小さなサイズでも木製や金属製、象牙製など様々なものから作られ、そのつくりも透かし彫りや蒔絵をほどこすなど、豪華なものもありました。
こうした紅を取り扱う店の中でも、特に評判だったというのが江戸では日本橋の「玉屋」、京都では「紅屋平兵衛」などです。こうした店舗には、紅を求める女性たちで大変にぎわったといいます。特に一年で最も紅の品質がいいという、寒中丑の日に販売された「丑紅」は大人気を博しました。
浮世絵にも多く描かれ、化粧する女性たちとともにあった紅化粧道具。紅を愛用し、唇や頬などを彩った女性たちの姿は、現代の私たちと変わりないのかもしれません。
《模擬六佳撰》 一陽斎豊国 嘉永元年(1848)
洗い髪の遊女が持っている紅猪口。これは左上には美人の代名詞である小野小町と小町の歌が書かれていることから、小町にあやかった商品「小町紅」を連想させる。