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2019.04.11
お歯黒をしている江戸時代の女性の浮世絵を見ると、その女性の年齢や既婚・未婚などのライフステージ、職業がわかります。
日本で最古のお化粧「お歯黒」。歯を黒く染めるこのお化粧は、『魏志』倭人伝や『古事記』などにはすでに記載があり、1500年以上続きました。明治時代になると徐々に姿を消していきます。
主に女性の通過儀礼として重要な役割を担ったお歯黒とは、どのようなものを使うのでしょうか。
その材料は「お歯黒水」と「五倍子粉」(ふしのこ)のふたつです。お歯黒水は米のとぎ汁や酢などに、古釘や鉄くず、折れた針などを入れた酢酸第一鉄が主成分の水溶液。五倍子粉はうるし科の「ぬるで」という木にできた虫こぶを加工したものです。
平安時代から戦国時代の上流階級の女性は成人の通過儀礼としてお歯黒化粧をしました。その後、江戸時代になるとお歯黒の慣習は一般に広がり、主に既婚女性が行うものになります。
お歯黒からは女性の職業も知ることができます。江戸では吉原の遊女のみがお歯黒をし、芸者は染めませんでした。しかし京坂では遊女だけではなく芸者もお歯黒をするといったように、地域でも違いが見られます。
ところで、お歯黒には通過儀礼をあらわす慣習以外の側面もありました。五倍子粉に含まれるタンニンには虫歯や歯槽膿漏の予防などの効果があり、お歯黒は優れたオーラルケア用品でもあったのです。
《君たち集まり粧ひの図》 歌川豊国 安政4年(1857)
吉原遊郭の朝。中心にいる遊女二人がお歯黒をしている。