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化粧文化 COSMETIC CULTURE
お化粧ヒストリー

リップメークは紅猪口と紅板で

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リップメークは紅猪口と紅板で

2024.08.29

江戸時代の化粧を象徴する赤・白・黒の三色のうち、唯一華やかさを演出できるのが「赤の化粧」。紅はたいへん重要なアイテムでした。

薄くほんのりと桜色に見えるようつけるのがよいとされたり、何度も重ねて濃いめにつけるのが好まれたり...と、紅のつけ方には「流行り」がありました。
江戸時代のリップメークで特徴的なのが、江戸時代後期、文化文政の頃に流行した「笹色紅」です。下唇に紅を何度もたっぷりと重ねることで、紅本来のメタリックな緑がかった玉虫色に発色させる、というもの。とはいえ、紅1匁金1匁と言われるほど、高価であった紅をふんだんに使い、緑色に輝くリップメークを見せつけることができたのは...美を競う高位の遊女など、限られた女性のみ。浮世絵などでその「かっこいい姿」を見て憧れた一般の女性たちだってやってみたい!のは当然の女ごころ...。

そんな強い思いから、いつの時代もイノベーションは生まれます。なんと「墨を薄く塗ってから、高価な紅をひと塗りする」というワザが発明され...それが一気に広がります。浮世絵にはこうして流行のリップメークに飛びついた娘たちの姿がたくさん描かれています。今でいえば、プチプラ使いこなしテク...でしょうか。Beautyに向かう女性たちの思い、その創意工夫の姿は、200年前も今も変わらないと感じます。

紅はどのようなパッケージに収められていたのでしょうか。
お猪口や皿、碗などの内側に粘性のある紅が塗りつけられた状態で販売されていました。そこから湿らせた指や紅筆で少量を取り、大事に唇につけるのです。しかもこの紅はリユースだったことに驚きます!使い終わった容器は、販売元に持っていき、また紅を塗ってもらう...というサステナブルな江戸社会に脱帽です。

朝の身支度では、お猪口や皿から紅を取り、鏡台に向かってリップメーク...。
では外出先ではどうしていたのでしょうか。お猪口や皿は持ち運べないし...ということで、またまたここに「紅板」という発明品が登場します。今でいうなら携帯用のリップパレット、です。携帯用ですから、最小限のコンパクトさが売り。木、金属、象牙、紙など、さまざまな素材を使い、花鳥風月、和歌、物語、茶道具、刀剣武具...とさまざまな意匠を凝らしたデザインが展開されます。細工も透かし彫り、蒔絵、象嵌と職人が腕をふるった姿が目に浮かぶよう。

紅板には、筆や白粉刷毛がセットアップされたものもあります。お出かけ先でササっとリタッチしたい、かっこよく見せたい、人とは違うモノを用意したい、などなど、女性たちのBeautyに向かう思いと共に、その夢をかなえてきた江戸のモノづくりを担った職人の心意気も見えてくるようです。

今回ご紹介した化粧道具はデジタルミュージアムでもご覧いただけます。

上段
左)紅猪口 明治時代
中)桜文様染付小町紅猪口 江戸時代末~明治時代
右)歌入り紅猪口 江戸時代末~明治時代
下段
左)梅模様蒔絵紅板、紅筆、刷毛 江戸時代末
中)桐菊文様透かし彫り紅板 江戸時代
右)松梅塀蒔絵紅板 江戸時代末~明治時代上段
左)紅猪口 明治時代
中)桜文様染付小町紅猪口 江戸時代末~明治時代
右)歌入り紅猪口 江戸時代末~明治時代
下段
左)梅模様蒔絵紅板、紅筆、刷毛 江戸時代末
中)桐菊文様透かし彫り紅板 江戸時代
右)松梅塀蒔絵紅板 江戸時代末~明治時代

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