ポーラ文化研究所ポーラ文化研究所
ポーラ/オルビス ホールディングス
JP|EN
JP|EN
Search
Close
化粧文化 COSMETIC CULTURE
日本の化粧文化史

025

伝統化粧の完成期
江戸時代12 日本髪の髪型&トレンド <燈籠鬢(とうろうびん)の流行と、そして再び髷(まげ)に>

2022.07.28

江戸時代を通じて現われた女性の髪型の名前は、なんと2~300もの多さになります。江戸時代前期に登場した島田髷、勝山髷、兵庫髷、笄髷を基本として、いろいろなバリエーションが考案され、江戸時代末期までに大変多くの髪型が生まれました。前回ご紹介した「江戸時代前期~中期の日本髪」に続き、今回は「江戸時代中期~後期の髪型トレンド」についてご紹介していきましょう。

<江戸時代中期~後期(享保から慶応まで(1716-1868))>
江戸中期、明和・安永(1764-81)頃になると襟足の部分にあたる髱(たぼ)に代わって鬢(びん)が横に張り出して流行しはじめます。鬢を張り出すようになったのは、江戸時代の風俗誌『守貞謾稿(もりさだまんこう)』(喜田川守貞著・1837-53)によると、「・・・・女子宝暦迄ハ日髪也其此タボ差出来程ナク止ミ燈籠鬢流行リ・・・・」(髱差しは宝暦までで燈籠鬢が流行る)とあるので、宝暦(1751-64)以降、燈籠鬢が流行り出したと考えられます。また、興味深いことに安永8年(1779)に出版された髪型図版集『当世かもじ雛形』には、それまで流行していた鷗髱(かもめたぼ)や鶺鴒髱(せきれいたぼ)と燈籠鬢が一緒に描かれているのです。この書籍の内容から髱(たぼ)から鬢(びん)の流行へ推移していった過渡期がこの頃であったことが推測されます。

燈籠鬢は、浮世絵師写楽や歌麿が活躍した天明から寛政(1781-1801)にかけて一世を風靡しました。歌麿も燈籠鬢の美人画を多く描いています。鬢の張り具合が透けて見えるところから、また燈籠の笠に似ているところからその名がついたといわれています。髪の左右から鬢をとり、鯨のひげや鼈甲(べっこう)などで作った半円形の鬢張(びんは)りを両鬢に通して、高く張り上げたのです。できあがった鬢は涼しげで当時の女性たちが好んでこの髪型を楽しんでいたのでしょう。以下に燈籠鬢で結われた主な髪型をご紹介します。

「①燈籠鬢・島田髷」は未婚の女性が結った髪型です。島田髷は江戸時代の代表的な髪型で、最初は遊女などが結いましたが、後に町娘などに流行し、現代では花嫁の髪型として知られています。燈籠鬢の張り具合が相まって黒髪の美しさが華やかに表現されています。

「②燈籠鬢・勝山髷」は既婚女性に結われました。武家風の雰囲気が漂う勝山髷も、この頃には一般庶民の髪型として定着していました。丸髷の原型といわれています。大きな髷には、燈籠鬢のように横に張り出した鬢が良く似合います。

「③燈籠鬢・しの字髷」は一般庶民の年増の女性が結った髪型で、元は武家の下働き女中なども結っていて、一般女性に広がって、島田くずしともいわれました。

江戸時代後期に近い文化(1804-18)頃になると、あれだけ流行した燈籠鬢もあまり結われなくなります。江戸末期になると、鬢を張った髪型から、また髷の形を見せる髪型が流行の主流になっていきました。基本の四つの髪型に属さない形の髪型で銀杏髷や櫛巻などの庶民階級を中心としたものが流行しています。丸髷は既婚女性のポピュラーな髪型として定着していきました。

「④銀杏髷」は、髪先をもう一つの輪の裏に付けて髷を結い、珊瑚・布などで根元を飾ります。二十歳位までの婦人の髪型だったが、後に三十歳以上の女性や後家など幅広い年代に結われたようです。

「⑤櫛巻」は、元結で結んだりしないで、髪を櫛に巻きつけて髷にしました。考案者は浅草寺内の湊屋お六という一般女性で、櫛を逆さに巻き込んだ髷が流行しました。商家の内儀や一般女性にも結われました。

「⑥丸髷」は、もっぱら既婚女性が結ったもので、年齢によって髷に大・中・小、厚い・薄いなどがあって、若い人は大きく、年配の人は小さく結っていました。若妻は赤い飾り布を掛け、年配になると水色系に変えていきました。

やがてこれらの髷も明治時代を迎えると徐々に姿を消していきます。江戸時代は、女性の結髪史上、最も輝かしい時代でした。日々の生活の中で培い磨き上げていった美意識と感性、そして古より大切にされてきた黒髪の美しさを表現する創意工夫によって日本髪が花開き、美しさを競った時代だったのです。
さて、ここまで2回に渡ってお話しした日本髪の髪型&トレンド、次回はいよいよ実際に髪型を再現した画像で結髪方法などをお伝えします。

※このコンテンツは2014年から2019年にポーラ文化研究所Webサイトにて連載していた「新・日本のやさしい化粧文化史」を一部改訂再掲載したものです。

  一覧へ戻る  

この記事のタグから他の記事を検索できます

最新の記事

上へ